見出し 現在地→ 参集殿  作:遊風稜

 

ちょっとお前の顔を見たいって思ったなんて、言わない。
雨宿りに来たわけでもない。
ただ、傘を借りに来ただけなんだ。

 

+ 「不恋雨_フレサメ」

 

雨が降るなって、思った時は、何となく煙草を吸うのをやめる。
別にあいつが嫌いだったからってわけじゃないって思ってる。

 

でも、なんとなく今日は来るなって思うから、起きて前髪を整える。

 

インターホンが鳴った。
タタタンと3連続で鳴らすのはあいつしかいない。

 

鍵を開ける私。ドアの前で、ずぶ濡れになってるあいつ。
いつものように、私は傘を貸すだけ。
いつものように、あいつはその傘を受け取るだけ。

 

雨が降ってる間くらい、あがっていきなよ      ―なんて言わない。

 

本当はそうして欲しいのか、どうでもいいのか、あんまり考えない。
あいつも、あがっていくとも、あがっていきたいとも言わない。

 

傘、また晴れたら持って来るんでしょう?
そうだよ。
そう。

 

たったそれだけの会話。努めて、目線も合わせない。

 

雨宿りしていく?      ―なんて訊かない。
雨宿りしていく       ―なんて訊かれない。

 

それじゃ、とあいつが踵を返す。
それきり、振り返らない。

 

私も、部屋に戻る。
途中、鏡を覗いた。
前髪がはねてた。
雨の日はこれだから嫌になる。

 

次の雨がいつか、天気予報なんて確認しない。

 

 

 

 

 

 

「不恋雨_フレサメ」 ―完―

 

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