見出し 現在地→ 参集殿  作:琳火

 

+ 「故郷の詠 -フルサトノウタ-」

 

−空が 見えてきた

 

 

大切なものを この手に包んで
振り返りもせず駆け抜けた 私の時代

 

今はもう 想い出すことしかできない

 

それでも掴んで放さないで 今も必死に抱えてる

 

今更なのに 追憶ばかり
夢を見るには 年を取りすぎて
振り返ってばかりの今

 

顧みることばかりで今の時を無駄にするのは
愚か者の証でしかないのにね

 

あの頃の大切な気持ちは捨てられない
それでも 今だって 命は続いているのに

 

 

−懐かしい 草の匂い

 

 

飛び出して 息巻いて
世界の舞台に立つなんて夢見て
あなたは笑っているでしょうか

 

止まらない時の中で 今も生きているのにね
私の夢ってさ 何だったっけ

 

汚れた明かりと 冷たい壁の連なりで
ここからは星が見えないよ

 

いつか希望を誓ったあの星は
どこだったっけ

 

私は どこにいたかったのか

 

過ぎゆく時代に 私はもう追いつけない
走る目的が 消えていって
方向を 見失って
前を見るのが いつの間にか疲れて

 

私の人生って 何だったっけ

 

靴を脱ぎ捨てる
背伸びのためのハイヒール
私には 似合わなかったね

 

 

何で気づかなかったんだろう
今になって焦がれるくらい
あの場所が好きだったのに

 

風に抱かれて 草の音を聞いて
空が 私を包んでくれていたのに

 

今になって 涙が出るのに

 

あなたが  隣にいてくれたのに

 

 

 

車を走らせる
代わり映えのしない 空と大地の狭間を

 

ここは国道 私の故郷への道
風が戻ってくる 草の匂いが聞こえる

 

大切なものを この手で汚して
振り返り続けた  私の時代

 

それはもう 想い出さなくてもいい

 

 

 

 

車を 止めた

 

もう何年も何年も 離れていたのに

 

風も 空も 大地も 覚えていたままだった

 

もう何回も何回も 言おうと想っていた 言葉が
涙にさえぎられる

 

たった四文字なのに

 

そこに立っているあなたが 優しすぎて
嗚咽しか出ない

 

あなたが呟いた 言葉が
本当に欲しかったものなんだって 感じる

 

たった 四文字なのに

 

 

 

走る
草を舞い上げて
ただ 真っすぐ あなたに向かって

 

裸足のまま 飛びつく
ただひたすら 強く抱きしめる

 

 

少し強い風が 景色を揺らした
優しいそれが 私たちを撫でる

 

見上げたら 遠い空が 降ってきた

 

 

 

あぁ  ここが…私の

 

 

頭に手が置かれる

 

どうしようもない感情の中

 

ここに戻ってきた 証の言葉を 呟いた

 

 

 

 

 

 

 

 

さぁ 優しさを詠おう

 

「千の感謝を込めて」

 

悠久の時
彼女が生きた時代

 

それは遠く言継がれる謳

 

 

 

 

 

 

「故郷の詠」 ―完―

 

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