見出し 現在地→ 参集殿  作:琳火

 

昏い空の見える丘に、私はまたやってきた。
夜明けまでは、まだ間があるだろう。
今日は、雲だってそんなに出ていないのに、何故か、星が見えない。

 

+ 「価値の選択」

 

少し強い風が吹いた。その腕に心を委ねる。
何だかちょっと… 笑えた。

 

空と私の境界はどこだろう。―多分、見つからない。

 

空を遠くするのは、私のエゴで、
空をここに感じるのは、命の流れの中にいるからだ。

 

私の始まりと        私の終わり

 

何時でも終わらせることができるから、こんなにも自由で、こんなにも味気ない。
それでも、本当は死にたくなんかないから、
小さな心に、意味を纏って、
詐欺みたいな、価値を被せて、
継ぎはぎの自分を騙しながら、小さな私は、今を生きてる。
ありったけの声で、自分を叫んでみる。

 

ここにいるってさ、気付いて欲しいから。

 

世界は雄大だから、何の打算も無く、そこにあるから。 悔しいくらい、綺麗だから、
埋もれないように、必死で声を張り上げてやる。

 

いつだって、

 

等価値な生と死を秤にかけて、その差を必死に比べたりしてさ、
そんなことに時の意味があるなら、何も、叫んだりなんかしない。

 

そんなことくらい、

 

いつだって揺らがないように、大切だと想うほうに、
心を乗せてやればいいんだから。

 

 

 

いや、

 

そうできたら、そう簡単にできたら、
やっぱり、私はここにこない。
やっぱり来てしまうのは…

 

怖いから、かな

 

 

 

遠い空…

 

その向こうは、見えない。

 

暗闇の向こう側から、こっちを見たら、どんな風に見えるのかな。

 

足は、地面を感じているはずなのに、遠い。

 

その空の向こうに、落ちていきそうになる。

 

怖い。
胸が詰まる。
支えのない心に、不安定な私に、凶悪な風が世界を歪める。
悪寒が背筋を這い上がってくる。
一人ぼっちが、本当に、怖い。

 

だから…
誇れるような物があるわけじゃないけど、
私は 「私」 を唯一誇りたいから、
負けないように、想いきり、叫ぶ 。

 

私が私であるために…
心を世界にいていい理由にするために。
独りじゃないって、信じたいから。

 

ここにいていいって、信じるために。
燃やした命の価値を               信じたいから。

 

 

 

だから…

 

 

 

今ぐらいは、涙が止まらなくても、
明日は笑えるように、大目に見てやるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

"私は  ここ  にいる"

 

 

 

誰に認められなくとも、世界に優しくして貰えなくとも、
私には、私がいるから。
私の為に泣いてくれる、私がいるから!

 

 

 

 

 

 

 

零れた私の涙を       風が拾った

 

 

 

 

 

 

「価値の選択」 ―完―

 

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